日本尺による体系寸法

正方形の秩序

1.尺貫法の優位性
 
木造住宅において施工者は、ほとんどが大工さんと考える事が出来ると思いますが、その大工さんのすべてが尺、寸を使って施工しています。1959年メートル法が法律化されて事実上、尺、寸は使用禁止になって以後も今まで使用され続けている寸法であり、これからも大工さんの間では使用され続けていく寸法です。
 設計者の多くは、3尺を910mmとして設計をしていますが、きちんと3尺を909mmに置き換えて設計をしなければ複雑な形をした間取り、例えば円弧を描く間取りを設計した時には大工さんは寸法が追えなくなってしまいます。大工さんはスミを残す又は、残さないでホゾ穴を掘るなどの細かな調整をしているわけですから909mmが910mmと言う事はスミより太い誤差が出るわけです。
 大工さんと一緒に仕事をするには、やはり、尺、寸の寸法感覚を身につける事が大切だと思います。そしてまた尺、寸はどういうふうに生れて来た寸法なのか知っておく必要があります。それは親指と人さし指を直角に開いた時につくられる親指から人さし指の長さを「咫、あた」と呼び5寸と決めました。咫は「寸法をあたる」のあたです。尺、寸は人間の指先から決められたヒューマンスケール寸法なのです。

2.尺・寸を基準にした寸法表とは

◆どう出来ているか
 
ル・コルビュジェのモデュロールのような体系寸法表を尺、寸でつくり木造住宅の設計に活用してもらい尺、寸をこれからの設計に取り入れてもらおうと思います。まず尺、寸の寸法が刻まれている巻尺と尺、寸の三角スケールを用意しなければなりません。それでは体系寸法表がどの様につくられているか説明します。
 ここで基準となる寸法は図1にある3寸、4寸、5寸、それに7寸です。
 5寸×2=1尺、5寸×3=1尺5寸の倍数
 7寸×2=1尺4寸、7寸×3=2尺1寸の倍数
 4寸×2=8寸、4寸×3=1尺2寸の倍数
 の数字を並べているだけの簡単な寸法表です。


図2、寸法表の左側は3寸で割り切れる数、3寸で割って1あまる数、3寸で割って2あまる数、3種類に整理したものです。
◆正方形の秩序
 この体系寸法は正方形を単位とし一定の秩序をつくり出しています。
1×1.5矩形は1×1正方形と二つの0.5×0.5正方形の集合体です。
1×1.4矩形は1×1正方形・0.4×0.4正方形・0.4×0.6(1×1.5矩形)に分割出来ます。
1×1.6矩形は1×1正方形・0.6×0.6正方形・0.4×0.6(1×1.5矩形)に分割出来ます。
1×1.4矩形と1×1.6矩形は1×1.5矩形を内包して正方形に収斂されて行きます。
1×1.4矩形は√2矩形の近似値、1×1.6矩形は黄金矩形の近似値であり1:1.4、1:1.5、1:1.6をそれぞれ整数比に直すと5:7、2:3、5:8に成ります。これらの比を寸の単位に直し、この正方形の秩序をもとに表したのがこの体系寸法表です。

3.どのように使うか
 
ル.コルビュジェのモデュロールの値や設計活動で使用する寸法、身近にある家具や道具の寸法など、この寸法表が一致する寸法を上げて見ます。

・5寸(151.5mm) 床からのコンセントプレートの高さ
・7寸(212.1mm) バレーボールの直径
・8寸(242.4mm) バスケットボールの直径
・1尺2寸(363.6mm) ソファの座位高
・1尺4寸(424.2mm) 標準的椅子の座位高、茶の湯の炉の寸法、モデュロールの43cmの近似値
・1尺5寸(454.5mm) 事務用椅子の座位高
・1尺6寸(484.8mm) カウンター椅子、椅子の座位高の最大値
・2尺(606mm)    最小ドア幅
・2尺1寸(636.3mm) パソコンデスク、テーブルの高さの最低値
・2尺4寸(727.2mm) 標準的テーブルの高さ、モデュロールの70cmの近似値、襖の引き手の高さ
・2尺8寸(848.4mm) 流し台の高さ、モデュロールの86cmの近似値、ドアノブの高さ
・3尺6寸(1,090.8mm) 一般的な手摺の高さ、身長175cmモデュロールの人体のヘソの高さ108cmの近似値、床からのスイ ッチプレートの高さ
・6尺  (1,818mm) モデュロールの183cmの近似値
・6尺3寸(1,908.9mm) 京畳の長手寸法、ドアの高さ
・6尺4寸(1,939.2mm) ドアの高さ
・7尺  (2,121mm) 建築基準法の居室の天井高210cm
・7尺2寸(2,181.6mm) 身長175cmモデュロールの人が手を上げた高さ216cmの近似値
・7尺5寸(2,272.5mm) 住宅で気持ちが落ち着く天井高、モデュロールの226cmの近似値
・8尺  (2,424mm) 住宅の標準的天井高
・8尺4寸(2,545.2mm) 住宅で解放感を与える天井高の最小値
・9尺  (2.727mm) 住宅で解放感を与える天井高

 基本的には尺、寸で木造住宅を設計してもらわなければ利用できないと思いますが、ある寸法を決める時に悩んだりしたらこの体系寸法表の数字を当てはめてみると言う事です。もしくは、この寸法表の寸法を使っていろいろな高さを、または間取りを決めてみると言う事です。必ず居心地の良いヒューマンスケール空間が出来るはずです。



参考文献
 望月長與:日本人の尺度、六藝書房、1971.6
 ル.コルビュジエ全作品集 第5巻、 A.D.A EDITA Tokyo、pp170〜177、1978.2

建築知識2002.5月号 p180に掲載